ぬか漬けのはじまり

食事

『ぬか漬け』に興味があった。

いかにも割烹着を着た昔のおばあちゃんがやっているようなイメージと、あの一見質素な様子と味わいに、何だかとても惹かれる。そこに何かがある気がした。

日頃のご飯のおかずに、ぬか漬けがあったなら、どんなに素晴らしいことだろう。

その前に、そもそも「ぬか」って何だろう。何となくしか分かっていない。

「ぬか」とは「米ぬか」のこと。その「米ぬか」とは、玄米を白米に精米する過程で削られた、お米の表面部分(※)のことだ。これが削り取られた結果、粉状になっている。

(※)「ぬか層」と呼ばれる、果皮(かひ)、種皮(しゅひ)、糊紛層(こふんそう)と、胚芽(はいが)の部分。

米ぬかに、水、塩、そのほか昆布等々を混ぜ合わせ、キャベツの葉や芯、野菜くずを入れて発酵させると(この「捨て漬け」といわれる工程を経て)「ぬか床」になる。ぬか床に野菜を漬けると、ぬか漬けが出来上がるというわけだ。

そして米ぬかは、どうやら、ぬか床に使われるだけではなく、ここに含まれる約20%の油分を取り出すことで「米油」が作られたり、家畜の飼料や、畑の肥料にもなるらしいことが分かった。お掃除に活用する方法もあるようだ。

日本米穀商連合会によると、この米ぬかには、95%の栄養素が含まれている(白米は5%)。「糠(ぬか)」という漢字が、米へんに健康の「康」と書くことにも、意味を感じる。

一方で、米ぬかの部分には、稲を栽培する際に使用した農薬が残る(残留農薬)。そのため、ぬか漬けをするなら、できるだけ農薬を使用していないぬか床で始めたかった。

調べて見つけたのは、『京料理 祇園ばんや』さんのぬか床だ。無農薬の玄米ぬかを使用しており、添加物は一切使用していない。ぬか床までも食べることができる。約14種類の材料を半年以上かけて熟成、発酵させて作られている。このぬか床で、すぐにぬか漬けを始めることのできる「ぬかの花スタートセット」も販売している。これだ!と思って注文したのは、退職する一年前のことだった。

周りは「早くやればいいのに。漬けるだけで簡単でしょ」と言って笑うが、私にとって、それは容易なことではなかった。仕事や日々の暮らしと同時進行で、新しく未知のことを始めるには、莫大なエネルギーを要する。50年でも、100年でも使い続けることのできるぬか床は、使い捨てではないのだ。ぬか漬けを始めた後の、ぬか床の管理を含めて継続していく算段がつかなかった。要は、始める余裕も余力もなかったのだ。それを「楽しむ」なんて、もっと遥か先の境地だった。

さて、一年の時を経て何とか始めようと、冷蔵庫に入れて保管したままのぬか床を見てみると、真空パックの中でペースト状のぬか床と水分が分離してしまっている。大丈夫なのだろうか?こんなに良いぬか床を、使う前からダメにしていたのでは、あまりにも悲しすぎる。

祇園ばんやさんは、分からない点等を電話で聞くことができる。心配になったので、電話で状況を話し確認してみると、まったく問題なく使えるということを、親切に教えてくれた。

まずは一安心。

そしていよいよ、祇園ばんやさんのハンドブックに従って、スタートセットのタッパをよく洗う。次に“ぬかの花”(ぬか床)を真空パックの上から軽くもんで、タッパに移す。そして、ぬか床に好きな野菜を埋めたら、表面を平らにならす。容器やふたの内側についたぬかは、雑菌が発生する原因になるので、きれいに拭き取る。きゅうりは12時間が目安とのことだ。

初めて漬けた野菜は、きゅうりとナスとミョウガ(ハンドブックに書かれていた)だった。きゅうりは美味しかった。ナスは、切らずにそのまま入れたので、きゅうりと同時に取り出したら、少し漬かりが浅かったような気がする。ミョウガのぬか漬けは、初めて食べたので、ちょっと不思議な味(というかミョウガそのもの)だった。

その後は、大根や人参を漬けた。これも自分が思ったより(というよりも、漬けた大きさに対して)漬ける時間が短かったようであったのと、量を多く漬けすぎてしまい、食べきるまでに3日くらい掛かった。そうこうしている内に、次に漬けたものが出来上がってしまう。一度にたくさん食べるわけではないので、漬けるのは少量で良いことが分かった。漬ける野菜や、漬ける時間に応じて、切る大きさも調整する必要があるようだ。

エリンギは、とても美味しくできた。かぶも美味しい。

漬ける余力がないときや、漬けるものがないときは、ぬか床を冷蔵庫に入れた。冷蔵庫の中に入っている期間の方が長いくらいだ。ぬか床の中の菌は、冷蔵庫に入れると寝たふり、冷凍庫に入れると死んだふり、常温に戻すと元通りになるらしい。冷蔵庫からぬか床を出して、また野菜を漬けるとき、生きていてくれて嬉しいと感じる。ぬか漬けはもうできているけれど、パンの朝。メニューをパスタにしてしまった夜・・・そんなときも、ぬか床を冷蔵庫に入れた。

こんな様子で、できたことはできたが、日々の暮らしに馴染むまでにも、勘どころが身につくまでにも、まだまだ時間がかかりそうな、この年の夏の、拙いはじまりだった。

会社員生活17年に渡るインターバル走の末、疲れ果てて「何もかも整えたい」と2019年に退職。現在は、専業主婦の傍ら新しい働き方を模索しつつ、退職後に向き合ったことや日々感じたことなどをエッセイにして発信している。趣味は、日向ぼっことクーピー画。

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