実家の大片付け・大掃除がおよそ一段落つく頃には、少しずつ進めていた自分自身のモノの片付けにも注力できるようになった。余力の合間を縫って、在職中に身に着けていた衣類を減らし、靴を減らし、書籍を減らし、残すアクセサリーを厳選した。2021年に入ってから使用し始めたフリマアプリは、初めこそ梱包や発送の手順に慣れないこともあったが、新しいことを知ってできるようになることで、自分のチャンネルが一つ増えたような充足感がある。今となっては当たり前にできることだが、それは新鮮な体験だった。個人間の需要と供給を満たすフリマアプリは、本当にすごいインフラの発明だと思う。
さて私には、引き出しを開けたときに用事を忘れる一瞬がある。決してぐちゃぐちゃになっている訳ではないと一応言っておきたいが、その時の目的とは何の関係もない雑多な情報が目に入ってしまうためだ。その一つが「カード類」だった。例えば、キャッシュカード、クレジットカード、何かの会員カード、病院やクリニックの診察券、航空会社のマイレージカード、ポイントカード等々。大切なものは専用のポーチに入れたり、ビニールカードケースに入れたり、ざっくり束ねたりと、カテゴリー毎に何となく分けてはいるが、それがどうもしっくり来ない。一体、皆どのように整理・収納しているのだろうか。人生ステージが変わった今、まずは改めて取捨選択していくことにした。有効期限のあるものや退職してから行かなくなかった洋服店のポイントカードや、もう行く予定のないクリニックの診察券などを処分していく。紙媒体のものは破って捨てるだけだが、磁気カードの中にはインターネットで会員登録しているものもある。面倒だが、ハサミを入れる前に一つひとつ退会手続きを取るべく確認していくと、昔使用していた携帯電話会社のe-mailアドレスで登録していたものまであり、マイページの会員情報からe-mailアドレスを一度現行のものに変更した上で、ようやく退会手続きを完了できたものもあった。単純であると同時にただただ面倒なだけの雑務を、相応の時間と労力を掛けて終わらせていく。そんなことを、私は真剣に行っていた。
残すカード類は、二つのカードケースに分けて収納することにした。お金に直結するカード類(銀行のキャッシュカードや普段使うことのないクレジットカードなど)と、それ以外のカード類だ。お金に関係するカード類は、ちょっと良い革のカードケースに収めることにした(気分的なもの)。スナップボタンを外して本のように開くことで、左右縦に7枚ずつ収納できるカードポケットが付いている。それ以外のカード類は、水彩画のように瑞々しい花々が描かれたポリエステル生地のカードケースにした。ファスナーを開けると本のようになっており、表紙の裏・中の一頁の表と裏・背表紙の裏、それぞれ縦に10枚ずつ、合計40枚を収納できるカードポケットがついている。どちらも開くとカードを一覧することができ、必要なカードをすぐに見つけることができる。多種多様なカード類は、二つのカードケースにより既に大分類されていることになり、それぞれのカードケースの中で中分類・小分類される形だ。前者のカードケースは、これまでと同様に印鑑等その他の貴重品とともに専用ポーチの中へ。ポーチ内が整理された状態となった。後者のカードケースはそのまま立てて引き出しの中に入れることにより、引き出しを開けたときにカードケースの背表紙(大分類)だけが見える状態となった。中分類以下のカード類が視界に入ることがなくなったことにより、思考が簡素になり動作にも滞りがなくなった。引き出しの中にも、心の中にも、風が通り抜けるようである。この対応から三年が経った今、再び後者のカードケースを開いてみると、当時は保留にしていたデパートのメンバーズカードや、有効期限のない飲食店のカードが目に留まった。同時に「これはもういいな」「また行きたいお店で有効期限もないけれど、そう頻繁には行かないな」と思うようになっていた。早速、出掛けたついでにデパートに立ち寄り退会手続きを行った。時間の流れとともに自分自身も、またカードの発行元との関係性も自然と変わっていく。そのとき、これまでの感謝とともにきちんと終わらせていきたい。人との終わらせ方が分からずに苦しんでいた、遠いあの頃の自分をふと思い出しながら、終わらせることができている今にほっとする。カードを入れるポケットが空くほどに、肩の荷のようなものが下りていく。身辺整理とは、自分自身の内面と物理的なものをすり合わせていく作業なのかもしれない。
ここからは、お金に関係するカード類を見直していく。終わらせるだけではない。今後の新しい基盤を作り始めていくのだ。まずはクレジットカード。従前から使用しているクレジットカードは、貯まったポイントを決まった商品と交換するもので、見合うものがないのでいつも商品券と交換していたのだが、申し込む手間、対面で受け取る手間、その商品券を使用できる店舗で何に使うか検討する手間が煩わしく、使いづらいと感じ始めていた。そこで新たなクレジットカードを申し込んだ。指定のオンラインショップにおける買い物でポイントが貯まったり使えたりと、より生活に即して利用することができるため、使い勝手が良い。日常で使用するクレジットカードを切り替えるべく、月々の支払いについてクレジットカードの変更手続きを行うと、従前のクレジットカードは最後の支払いが済み次第、解約した。この他にも、今後使用する予定のないクレジットカードも解約することにした。海外旅行保険の適用条件が変わったためだ。申し込んだ当時は、カードの利用有無に関わらず持っているだけで適用されていたものが(自動付帯)、サービスの改定により、旅行代金を対象のカードで支払うことにより適用されること(利用付帯)に変わったためだ。利用付帯であれば、新たに申し込んだクレジットカードで事足りる。この世に恒久的なものは何もなく、ほんの数年でサービス内容が変わることもある。その時々で、身軽に乗り換えていきたい。
そしてキャッシュカード、つまり銀行口座にも着手していく。普通預金の金利や手数料でメリットが感じられるネット銀行口座を開設した。こちらを新たな生活基盤とするべく、先のクレジットカードとの紐付けを行った。これにより既存の銀行口座(A)が不要になったのだが、この他にも会社で口座を作って以来一度も使用していない銀行口座(B)と、キャッシュカードだけが手元に残っている状態の銀行口座(C)があるため、それらをすべて一掃することにした。それぞれ別の銀行であるため、日程を分けて窓口へ赴く。銀行の窓口は、在職中であれば半休や有給休暇を取得しなければならないような平日の明るい時間帯しか開いていないが、今の私は都合をつけることができる。そのありがたさを感じながらも、体力と気力を工面するのに必死の専業主婦であった。退職してこの方、こんなことの連続である…。そして銀行口座AとBは淡々とその解約手続きを完了したのだが、思わぬ手続きを要したのは、子どもの頃に父が作ってくれた銀行口座Cだった。学生時代までは使っていたが、就職時に別の銀行口座へ預金を移して以降は使用していない。通帳はとうの昔に処分しており、名義は旧姓のまま、印鑑を忘れてしまったためだったか、再訪した記憶だ。担当の方が端末で色々と調べてくれたのだが、結局データを確認することができず、最終的には口座の現存確認をする運びとなった。中身は空っぽのはずだが、手元のキャッシュカードをきちんと処分するという目的に向かって、案内に従い必要書類を書いていく。この口座を開設してから現在に至るまでのすべての住所も思い出せるだけ書いた。そして後日、郵送で受け取った調査結果により、なんと十六円の「利息」が入っていることが分かった。同封されていた『貯金払戻証書』を持って再び当該銀行の窓口へ行き、時空を超えたその十六円を受け取ると、ようやく銀行口座Cの解約に至ったのだった。たった一枚のキャッシュカードを処分するのに、こんなに手間の掛かることになるとは思わなかったのと、珍しい経験だったという興味と、ようやく目的が果たせたことにすっきりしたという気持ちが入り混じる。そんな一連の銀行口座の解約を通して特に実感したのは、時代とともに発達したネット銀行ならば、このような窓口の手間が発生しないということである。
新たな口座を開設したネット銀行や、申し込んだクレジットカードにより、時々、保険の案内等のダイレクトメール(郵送)が届くようになった。毎回すぐに処分していたのだが、継続的に(忘れたころにまた)届くため、停止するための手続きも取った。その方法は、ダイレクトメールの下部に小さく書かれていたりする。
とにもかくにも、常に身辺整理しながら生きていきたい。
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