結婚式のおわりとその後のはじまり

退職後の日常

家には、依然として大きな白い箱があった。その中身は、ウェディングドレスである。結婚式を終えて帰宅したあの日から、2020年の時点ですでに六年が経過している。その大きな白い箱は、動線の妨げにならないようある時までは押入れの中に、その後は棚の上に置かれていたのだが、それを日々横目にしながら時間と仕事に忙しく過ごしてきた中で、目に入る度にどうしたものかと考えていた。しかし今はもう、保留にすることを終わりにしたいと思う。

ウェディングドレスは当時のまま、美しい輝きを放っている。とても気に入っていて大切な思い出の品だけに、どうしても処分することはできない。せめてこのまま買い取りしてもらえないかと、二、三か所に問い合わせたりもしてみたのだが、同系ドレスの在庫が過剰になっている等の理由で買い取りしてもらえるところはなかった。やはり、自分で向き合うしかないのだ。

次に検討し始めたのは、リメイクだ。式場でもミニチュアドレスやベビードレスなどへのリメイクをしているようだったが、慌ただしい中、考える間もなく現在に至る。改めてウェディングドレスのリメイクについて色々調べてみると、『ウェディングドレス&ベールリメイク専門 HANAKANA』さんが目にとまった。ベビー・キッズ用ドレスやアクセサリーだけでなく、ポーチなどの小物にもリメイクできるようで、気付けばそのリメイク例をまじまじと見つめていた。それぞれに大切な思い出のウェディングドレスがどれもこれも、別の形になって生き生きと輝いている。私たちに子どもはいないので、リメイクするなら実用的で自分がたくさん使えるものにしたい。例えば、何かを収納するポーチとか、旅行時に使えそうな衣類用の巾着とか、ポケットティッシュケースもいいなぁと、前向きな想像が膨らんでいく。カスタムオーダーでサイズ変更もできるようなので、まずは気になったものについて見積りを兼ねた問い合わせをしてみたのだった。

その後、私が正式に依頼をするに至るまでに、およそ半年を要することになる。最終的にどれにリメイクするか検討していただけでなく、ドレスにハサミを入れることに対して、まだ完全には決心がつかなかったためだ。なんて勇気のいることなのだろう。しかし既存のまま持ち続ける選択肢は、もう、ない。自分でできることから進めていき、気持ちの整理をつけていくことにした。ドレスに裁ちばさみを入れ、内側の素材を切り離す。ボリュームを出すための固い網目の素材は、処分した。固く張りのある裏地素材はリメイク時に使用するようなので、洗濯して取っておく。そしてボリュームダウンしたドレスの表生地も洗濯しアイロンがけまで行うと、シルエットがすっきりとし、シワもなくなってきれいになった。これらはリメイク品の素材として、依頼を出すまでの間、畳んで静かに保管しておいた。

そして同時に向き合うべきは、ドレスの小物であった。キラキラしたビーズとスパンコールがちりばめられたベールも、グローブも気に入っている。ドレスの腰につけることができる大きな花飾りは、とても気に入ったワンポイントだった。どれも本当に好きで大切なものだけに、後ろ髪を引かれる。写真に残っているからと決心をつけたはずなのに、どうしても処分することに躊躇してしまう。「これで終わりにしてしまって良いのか」「とても残酷なことをしようとしているのではないか」と頭の中がぐるぐるしてくる。でもこのまま放置してはおけない。きちんと整理しなければならないし、そうしたい。決心が揺らぐ往生際の悪さと、処分することを決断する勇気が拮抗する中、迎えたごみ出しの日はもう先送りにできない。この日、朝の光が届く中、それらの小物は埋葬するように大切に袋の中に入れて、心からの感謝とともにお別れしたのだった。

部屋に戻ると、空いたスペースを見て、ほっとした。これらの小物のことは、「素敵だったなぁ」と今でもたまに思い出す。ほんの少し寂しい気もするけれど、だからといってそのまま手元に置いておくだけでは、スペースの使用に伴って心のどこかに心苦しさを生むだけだから、これで良かったのだ。当時の美しい輝きとお気に入りポイントをそっと胸の中にしまって、また思い出したときにはその素敵さを称えて、私に身につけさせてくれてありがとうと思うことにしたい。

ウェディングドレスはHANAKANAさんに託すことにした。ボックスケース二つとポケットティッシュカバーにリメイクしていただくことに決めた。リメイク品は、およそ半年後に完成した。届いたウェディングドレスのリメイク品は、細部に至るまで縫製が本当に綺麗で、ウェディングドレスがそのまま生まれ変わったようだった。余り布も決して痛々しくなく一緒に返送していただけた。HANAKANAさんの確かな仕事ぶりは、完成したリメイク品を見たら誰もが分かるはずだ。『思い出のウェディングドレスを裁つことは勇気のいることですよね。その迷いや不安を少しでも払拭できるように、そして喜んでいただけるように、私どもは尽力する思いです』となかなか決心がつけられない気持ちにお言葉をくださったことにも、感謝している。

それから三年が経った。ポケットティッシュカバーは時々洗いながらたくさん使っているし、サイズ変更で大きめに作っていただいたボックスケースは使用している収納コンテナにぴったりで、結婚式に関連するものを収めたり、自身の細々としたものの収納に役立っている。ウェディングドレスが日常で使える実用的なアイテムになっていることがしみじみと嬉しい。あれこれ調べて考えてみたり、問い合わせをしたり、裁断して洗濯してアイロンがけして畳んで、また検討したり…と、手間と時間は掛かったけれど、ずっと保留にしてきたことと向き合い、納得できる形となって満足している。目まぐるしく、そして思っているよりも時は過ぎたが、ようやく結婚式を完全に終えて、一区切りついたような気がした。もうすでに始まっていたその後の日々が、ようやくはじまるのかもしれない。

大手電機メーカーのサプライチェーンを担う物流会社において、輸出手配や輸出入コンプライアンスの業務に従事してきました。
2019年の退職を機に取り組んだことや深く感じたことをエッセイとして記録するとともに、そのほんの一欠片がどなたかにとって何かのヒントになればと思い、このブログを始めました。こんな物語もあるんだな、と読んでいただけたら嬉しいです。
趣味は、日向ぼっこ・クーピー画・たまに着物で美術館に出掛けることです♪(これらの背景については、追々記事にしていきたいと思っています^^)

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