二階、開かずの間の前にある通路を完全に片付けると、今度はその通路にある大きな押し入れに取り掛かった。建付けが悪くなっており、襖(ふすま)の開け閉めも一苦労な押し入れだ。押入れの中は、上段と下段があり、昔からありそうな重たい布団類がぎっしりと収納されていた。母は何とか干したりもしたそうだが、叔父が泊まることになった場合の布団を除いて、他はすべて”予備”であり、実際に使うことがないものだと確認できると、それらすべてを処分しようと思った。三枚ある襖も、全部取り外して処分してしまえばいい。そうすれば、この大きなスペースが空いて、物置きにできる。叔父の布団は別の押し入れに移動させ、使用頻度が低いモノや現時点では捨てられないモノは、あちらこちらに散乱させず、ここに集約しておけばいい。処分後のイメージがどんどん湧いてきた。
早速三枚の襖を外し、各所を同時進行で進めている間、気が付くと父によって襖が元に戻されているという押し問答も度々あったが、その不要性を説得し、ついに処分する運びとなった。布団類は、この二階通路にある窓からすべて外に落とし、父から軽トラックに積んでもらった。空っぽになった押し入れの中は、砂埃が結構あり(押し入れの上から落ちてきたりもするらしい)、全体を掃除する必要がある。押し入れの上から砂埃が落ちてくるなんて、もはや普通の押し入れと位置付けてはならない場所なのだ。「ほぼ野外の物置き」として考えるのが適切だろう。
材木で作られたその押し入れの上は、梁や屋根との間の高い空間になっているため、背の高い脚立を使えば、登れそうである。早速、箒とちりとりを持って六段ある脚立に登り、押し入れの上に上がった。断熱材など入っていない、むき出しの屋根裏が下からよりもよく見える。初めて位置したその場所から周りを見渡し、遠くの暗がりに目線をやったとき、少しドキッとした。その暗闇の中に、ぼうっと米俵が見えたのだ。梁に吊るされていて、お札なのか、紙垂(しで)なのか、白い紙も付いている。どうやらこの家を建てたときのもののようだった。この押し入れの上から続く屋根裏は、暗くて足場も危険なことが分かるので、とても近づくことはできない。想像もしなかった米俵の存在を感じながら、押し入れの上の掃き掃除に取り掛かった。梁の上に乗っている砂埃は、押し入れの上から手が届くところだけを箒で払った。脚立を降りると、今度は押し入れの中(上段・下段)である。掃き掃除と拭き掃除を行う。どんなに水拭きしても完全に綺麗になることはないと感じたが、一晩乾かした後で改めて見てみると、かなり綺麗になっていた。下段の底は、反っている箇所があるが、物置き場としては、十分である。
こんな場所には、無印良品の『ポリプロピレン頑丈収納ボックス(大/50L)』がぴったりだった。両親が押し入れから出し入れするにも負担がない形状で(持ち手があるので引っ張ることができる)、持ち上げるにも丁度良いサイズで(特大だと大きすぎる)、頑丈で軽い。使用時のことを考えると、あまり重ねて置きたくはないが、二段に重ねることもできる。上から砂埃が落ちてきたとしても中のモノが守られるし、収納ボックス自体にあまり凹凸がないデザインなので、汚れたら簡単に拭くことも(洗うことも)できる。いずれ両親がこの実家を離れるときが来ても、割れ物だけ中で梱包しておけば、このまま運ぶこともできよう。大きめのポストイットやタックシールに、中に入れたものを書いて貼った後、両親に物置きとなった押し入れの説明を行った。
母の部屋からこの物置きに来るまでには、大きな段差があるものの、通路に置かれていたモノをすべて撤去したことにより、動線は広くなっている。問題は、例の小階段の穴である(実家の大片付け・大掃除(5)に記述した)。この押し入れに向かって右端がその場所なのだ。母もここに落ちそうで怖いと言う。父にとっては、生家で当たり前に慣れ過ぎていて気にも留めていなかったし、自分で「ヒヤリハット」を体感したことがないので、あまりピンと来ない様子だった。しかし、そこでモノを出し入れするにあたっての足場の危険性を何度も説明すると、ようやく腑に落ちたようだ。この後、ホームセンターで柵にできるものを三人で探し、「すのこ」を二枚買った。最終的には父がこれを合わせて頑丈にした上で、長細い木材と併せて天井から床面に設置した。
掃除をすると、その場所の状態や、家の構造がよく分かる。
この家は、造りが古いが故に危険な箇所もあるし、掃除等の維持・管理を含め、生活するには苦労が多い。農作業だけでも体に負担になっている現状、特に母にとってはもう限界なのだ。もう、ずっと前から。
「もっと早くこうしたかった」とも、「ギリギリセーフだった」とも感じられた。いずれにしても、私にとっての最短が今で、私たち家族にとっての最適が今だったとしか、考えようがない。
ここまで大片付け・大掃除を進めてきたことにより、大体の家の間取りや構造も段々と分かるようになってきた。そもそも、外からこの家を見たときに見える窓が、どの場所の窓かさえ、これまで私には分からなかった。それらの窓が開いている様子を見たことがなかったし、触れたことすらなかったからだ。遊園地のお城の窓のように、見えるけれども実態はダミーという感覚だった。まずは窓の内側の部屋なり空間を片付けて整理し、窓全体の拭き掃除をして、換気をしながら外を見る。そしてようやく「あぁ、外から見える、あの小さな窓は、ここだったのか。」と、初めて分かるのだった。
コメント