さて、身辺整理のはじまりは、何とか四十代を迎えた私の新たな生活基盤づくりへと繋がっていく。世の中は2022年に入っていた。私はまだ色々なことがやっとでありながら、やらなければならないことがまだまだある。
銀行やクレジットカードというお金に関わる生活基盤を変えた次に着手したのは、確定拠出年金だ。退職後に必要であった手続きの一つとして、企業型確定拠出年金(企業型DC)から個人型確定拠出年金(iDeCo)に移管した訳だが、会社が指定していた運営管理機関の中で、とりあえず期日までに対応しただけの状態だった(『夜のはじまり』参照)。しかし、インターネットを通して色々な情報が得られる今、改めて検討し選択し直す必要がありそうだ。運営管理機関によって、運用コストも取り扱っている商品も、それぞれ全く異なるからだ。今はもはや会社が指定する運営管理機関に縛られる必要はなく、どこの金融機関で自分の資産を運用していくのか、自分で自由に選んで良いのだ。例えば、掛金を拠出せずにこれまで積み立てた資産の運用だけを行う「運用指図者」としての口座管理手数料だけを見ても、A社とB社では、月々三百円以上も異なる。十年、二十年と長い年月を掛けて運用を継続していく性質から、当然、できる限り低コストの方がいい。限られたものの中の限られた選択肢からではなく、数多存在するものの中から、良い商品を取り扱っていて口座管理手数料の安い運営管理機関に切り替える。「なんて自由なのだろう!」こうして私は、ようやく成り行きからではなく、自分で調べて、考えて、納得して、決定していくのだった。
同時に、つみたてNISA(現在は、NISA)を始めることを検討し、最終的にはiDeCoの運営管理機関と同じ証券会社で始めることにした。当該証券会社にNISA口座を開設する必要がある。色々調べてみると、投資信託の積み立てをクレジットカードで決済できるのだが、ポイント還元等の観点からその証券会社と相性の良いネット銀行やクレジットカードがあることが分かった。NISA口座の開設の手続きを進めるとともに、それらの申し込みも行っていく。自己責任において必要だと判断したことながら、これまでやったことのない未知のことをやり始めていることと、『身辺整理のはじまり』に書いた通り、銀行口座やクレジットカードを減らして間もなく増える状況に、頭の中がやっとである。どこの銀行口座とどのクレジットカードを紐づけているのか、ネット銀行間の自動振り込みを含む自分の運用フローを図に表しておく。それから必要に応じて積み立て金額を変えたりしながら、小さく継続している。またこのための新たなクレジットカードの申し込みにより、保険の案内のための着信が度々あるため、調べた上でその停止手続きを行ったことも書き記しておきたい。
私は随分前から、砂漠の砂の上に家を建てるような感覚が拭えないでいる。どんなに頑丈な柱を砂の中に刺そうとしたところで、土台がしっかりしていないので崩れてしまうようなイメージだ。それは何もかもに言えることで、お金のことに関して言えば、根本的に無知で分からないことも多く、その拠り所のなさや未来の不確定さから、何を目指したらいいのか、或いはどこが現実的な落としどころとなるのかが見えず、何かが常にしっくり来ていない。まずは納得できる考え方を軸として持たなければ、生命維持のために感じる漠然とした不安は拭えないだろう。掛かるお金のことについても、整えたいと思っていたことの一つだったのだ。そんな私が参考にしたのは、両@リベ大学長(著)の『本当の自由を手に入れる お金の大学』だ。『両学長 リベラルアーツ大学』というYou Tubeチャンネルでも有益な情報を発信されている。この内容を参考に、覚悟を決めて一つひとつ、愚直に実行していくことにした。今できることは、全てやっておきたい。
そういう訳で、生活費の見直しである。固定費を減らすべく、使用しているスマートフォンについて通信費の契約を大手キャリアから格安SIMに変えていく。格安SIMは全く馴染みがなかったのだが、大手キャリアのものと比べて利用料金が格段に安いSIMカードのことである。大手キャリアが所有している通信回線網を借り受けて、自社ブランドでスマートフォンなどの通信サービスを提供する事業者によるものだ。主にはお昼や夜など、通信が混雑する時間帯におけるモバイルデータ通信(4Gや5Gなど携帯電話の電波を利用してインターネットに接続する)では通信速度が遅くなるデメリットはあるものの、Wi-Fi環境下であれば影響はなく、何より月々の利用料金に大きなメリットがある。格安SIMのサービスを提供している九社の中から、現在の利用状況を元にコストシュミレーションを行い、比較検討した。現状、家のWi-Fiを利用することが主な私は、おおよそ最小限のプランで良さそうである。そこから乗り換え先を決定した。
インターネット上でSIMロックを解除した後、MNP予約番号を取得するべく契約中のキャリアに電話を掛け、格安SIMへの乗り換えの手続きを進めていく。音声ガイダンスに従って操作を進めるが、最後のオペレーターにはなかなか繋がりにくかった記憶がある。何かを始めることよりも、終わらせることの方が難しいことが多いと思う一例だ。オペレーターの質問に対する回答を経てMNP予約番号を取得すると、同日中に乗り換え先の会社に申し込みを行った。レターパックでSIMが届いたのはその二日後で、同封されていたマニュアルを参照しながらスマートフォンのネットワークの設定を行った。初めて対応することだけに一つひとつ確認しながら、開通予約の日時もかなり余裕を持って指定したため、すべての設定を完了するまでに八日を要したが、日数はさほど掛からないことが分かった。残すところは、関連するスマホ決済サービスの登録とIDの削除だ。スマートフォンの契約とは紐付いていないため、別途対応する必要がある。お問い合わせ窓口に電話をして登録の削除依頼をすると、およそ一週間後に解約となった。プリペイドカードもハサミを入れて処分する。その後インターネット上でIDの削除も行い、ようやく旧契約先に関係するものをすべて解約・削除することができたのだった。
ここまでに、ネット銀行の利用、使用するクレジットカードの変更、格安SIMへの乗り換え、iDeCoやNISAの基盤作りと、生活におけるインフラを大幅に整備・移行してきた。ここまで来ると、やっと何かが変わった気がする。それまで自分が暮らしていた世界とは全く違うところに存在し出したような感覚だ。新たに望んだ世界の中で、改めて暮らしを始めていく。何とか完成した雛型に一安心しつつ、何かあれば、必要に応じて修正・変更すればいい。ここまで整備しておけば、もしまたどこかに乗り換えることになったとしても、それは難しいことではないはずだから。
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