自分の足と靴を考える

暮らし

さて、私が日ごろ感じていた地味な疲れの原因はたくさんあるのだが、その一つが『靴』だった。どうもしっくりこない。何故なら足の小指が靴に当たって痛くなることが多く、小指の爪が黒くなってしまうこともしばしばだったからだ。もちろん靴を購入する際は必ず試し履きするし、必要に応じて中敷きを入れて調整もしてもらう。それでも靴によっては、例えそれがウォーキングシューズといわれるものであったとしても、歩いた時間に比例して足の小指が痛くなってくるのだ。在職中はヒールのあるパンプスで通勤していたわけではないものの、自宅から駅までの間には坂道もあるし、片道約一時間の電車には当然座れないことだってある。あまり意識を向けないように自分をまやかすが、疲れたからだが確かに感じ取るその痛みは、どうしたって誤魔化しきれない。そんなときふと思うのは、災害等の発生により、急遽、中長距離を歩くことになった場合のことだった。それは2011年3月11日の東日本大震災以降、時折、考えるようになった。あの日、中部地方に出張していた私は、幾つもの幸運に恵まれたお蔭で、最寄りの新幹線の駅に着いた後、そこから自宅までの約1時間を歩いて無事に帰ることができた。またいつ、どこにいて、どんな服を着て、どんな靴を履いているときに起こるかわからない。究極的には、それがどんな状況であったとしても、自分の選択として受け入れる覚悟を持ちつつも、備えあれば憂いなしの一つとして、日頃から長時間歩いても足の小指が痛くならない、履き心地70点以上の靴を履いていたいと思う。それはつまり、どんなときにも安心できて、出掛けた先の用事を思いきり楽しむことができる靴ということでもある。そんな靴を探し求める手がかりとして、まずは自分の足を知ることから始めてみた。

調べてみると、つま先の形状には幾つか種類があることが分かった。日本人に最も多いとされているのが『エジプト型』で、足の親指が一番長く、小指にかけて徐々に短くなる形だ。次に日本人に多いとされるのが『ギリシャ型』で、人差し指が最も長く、次に親指と中指が同じくらいの長さ、中指以降は徐々に短くなる形だ。日本人には少ないタイプの『ローマ型』は、親指から中指までの長さが同じくらいで四角い形状なのでスクエア型とも呼ばれる。ローマ型よりも更に日本人では割合の少ない『ドイツ型』は指の長さがすべて均一という形らしい(ドイツ型もスクエア型の一部と理解した)。私はどうやら、スクエア(ローマ)型だということが分かった。「ボール部」といわれる親指の付け根と小指の付け根にある骨を一直線に繋げると、ほぼ真横になるというのもその通りだ。スクエア型は日本人の5%しかいないらしいのだが、本当だろうか。そんなスクエア型の足に合うのは、つま先が四角いスクエアトゥか、またはつま先が緩やかに丸いラウンドトゥの靴とのことなのだが…。

次に、靴についてだ。通常、靴を購入するときに参照する「サイズ」とは「足長(そくちょう)」のことで、踵(かかと)から最も長い足指までの長さである。更に、ボール部をぐるりと一周したときの長さを「足囲(そくい)」といい(ワイズともいう)、サイズに対する足囲の長さに応じて”EE”のように記号化されている。Eが多いほど足囲が長い、つまり幅広ということになる。これは日本の産業製品に関する規格や測定法などを定めた、日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)に準拠した靴のサイズに関する表示である。JIS規格においては、11歳以下の子ども/12歳以上の男子/12歳以上の女子、それぞれに付表があり、足囲のアルファベット表示もここに示されている。E、EE、EEEくらいしか見たことがなかったが、実際にはA、B、C、D、E、EE(=2E)、EEE(=3E)、EEEE(=4E)、F(=EEEEE=5E))、G(=EEEEEE=6E))までの9~10段階もあるのだ。しかし、実際には「AAA」などAよりも足囲の細いという方もいるし、踵が小さい方もいるそうだが、JIS規格にそれらの設定はないようである。

更なるヒントを得るために、とあるフットカウンセリング店を訪れると「四角いですね!」と店員さんの第一声を受けた。やはり私の足は、スクエア型だったのだ。次は「薄いですね」だった。実際に足を計測してもらうと、サイズは左:22.9cm 右:23.1cmで、足囲はCだった(体重を乗せない状態だとA~AA)。靴によく小指があたるので漠然と幅広なのかと思っていたが、足囲(幅)としてはむしろ細いことが判った。サイズは左右で2mmの差があるが、顔や体が完全に左右対称ではないことと同様に、左右差があっても自然なことらしい。ここではオーダーメイドの本革のスニーカー(紐靴)を見繕ってもらったほか、手持ちの靴を見てもらったり、紐靴の履き方、歩き方等を教えてもらったりした。その中でも印象に残ったお話は、一般的に足・靴・歩行に関する知識とサービスを提供するお店(例えば、フットケア・靴の販売・ウォーキングレッスン)がそれぞれ個々に存在しているということだった。本質的にはすべて繋がっていることがまるで縦割りのように存在している様子に、何故だか妙に納得したのだった。

そして知ることになった衝撃の事実がある。そもそも一般に流通されている靴の殆どは、つま先が「日本人に最も多いとされるエジプト型」で、足囲も「日本人女性に多いとされるEやEE」であるらしい。どこの商業施設に行っても、溢れるほど販売されている靴。しかしその多くは、つま先の形状や足囲が凡その大多数向けであることから、そもそも自分に合う靴が見つかりにくくて当然のような現状だったのだ。足は、つま先の形もサイズも足囲もそれ以外を構成する要素も千差万別である一方で、靴の規格は目安としてそのほんの一部が標準化されているに過ぎない。そういう意味では、例えつま先がエジプト型であったとしても、靴に悩む方は多いのかもしれない。価格とデザイン以外は、大なり小なり妥協せざるを得ないことが多い道理が見えてきたのである。

濃いネイビーカラーで作ってもらった本革のスニーカーは、むしろきちんとした革靴という雰囲気だ。諸般の事情により、試し履きと履きならしに至ったのは引き取りからかなり時間が経過してからだったのだが、細身で足の甲にもフィットする感覚があり、サイズも足囲も申し分なく合っている。シュッとしていて綺麗に見えるシンプルなデザインも気に入っているし、本革の呼吸によって通気性が良いことも感じられる。しかし、三時間ほど外出すると、やはり段々と小指の爪部分が当たって痛くなってきてしまう。最も解消したいと願っている問題が、オーダーメイドの靴にも発現してしまうのだった。再メンテナンス期間はとうに過ぎていたこともあり、近くの靴の修理店のアドバイス等を元にコロニルのストレッチムースとシューズストレッチャーを購入すると、フットカウンセリング店にも念のため確認した上で、当該箇所を自分で少し伸ばすことにした。手間と時間は掛かったが、結果は好ましい。このような調整方法を知ることができたことも勉強にはなったが、靴に応じてこんな煩わしいことをしなければならないのは難である。

どう考えても私にとっての最重要事項且つ第一関門は、足の小指があたらない靴を選ぶことで、それは形にあると思われた。フローチャートでいえば、一番初めにくる判断記号の中に『足の小指があたらない靴の形状をしているかどうか』があり、Yesのときに限り、次の手順に進むことができる。ここがどうしても自分の中でクリアになっていない。フットカウンセリング店で知り得た足を悪くしないための靴選びに関する事項等は、私が遂行すべきフローチャートにおいて、二番目以降に登場する判断内容となることに気が付いた。まずもって知りたいのは、(スクエア型の足の私が)初めの判断事項に見合う靴を見極める術なのである。

この点を解消すべく根気強くインターネットで調べていくと、スクエア型の足の人に向けたとても有益な情報を見つけることができた。その答えは、ボール部にあった。スクエア型の足の人は、靴選びの際にまず靴の裏(靴底)を見て、ボール部である一番幅が広くなっている部分を直線で結んだときに、真横に一直線になるかどうかを見るというものだった。これまでは感覚的につま先に丸みがある靴を手に取ることが多かったのだが、靴底のボール部を直線で結んだときの傾斜を見るなんて視点はなかった。その傾斜が殆どないか、またはあってもほんの僅かで、自分の足のボール部と同じくらいの傾きであれば良いということになろう。この情報を発信してくださった方に心から感謝したい。この点を考察することにより分かったことがある。いくら靴のつま先が丸くても、ボール部を結んだ直線の傾斜が大きければ、必然的に靴の曲線部分に小指があたってしまうということだ。ようやく腑に落ちたと同時に、これまで何度も痛い目を見てきた道理が理解できた瞬間だった。同様に、どんなにつま先が四角く見えたとしても、靴底のボール部が同様であれば、やはりその傾斜部分に小指があたってしまう。それらは、エジプト型の足の方向けの靴ということになるだろうからだ。必ずしも単純につま先がラウンドトゥかスクエアトゥかだけで判断することはできないものと考えられる。オーダーメイドの本革のスニーカーの靴底もまたエジプト型で、ボール部を直線で結ぶと斜めになった。足囲や足の特徴に応じた木型が数多くあるといっても、個人専用に作られた木型ではないため、その時点で持ち合わせている木型ではどうしても限界があるのかもしれない。

小指が当たらない靴選びに関する最重要の判断方法を知った私は、本革のスニーカーのほかに気兼ねなく履けるスニーカーのような靴を探し求めることにした。私の足に合うものはきっとあるはずだ。幸いなことに現在は会社勤めをしていないので、カジュアルなもので構わない。紐靴であれば、自分の足囲に合わせて調節することも可能だ。すると、アメリカのブランド『Keen(キーン)』の『Jasper(ジャスパー)』というアウトドアスニーカーが目に留まった。商品の画像を見る限り、つま先がスクエア型に近く、肝心の靴底のボール部もほぼ真横一直線になる。カラフルな色合いのジャスパーを閲覧しては眺める日々の中で、あるネットショップで落ち着いたネイビーカラーのものが販売されているのを見つけたことを機に、具体的に購入を検討し始めた。サイズを決定するにあたり、頭を悩ませたことが二つある。一つ目は、サイズ表記よりも小さめに作られている商品であるということだ(購入された方の数々のコメントより)。二つ目は、実際に履く靴下の厚みを見積もることだった。これは、冷え性ゆえに冬は厚みのある靴下を履くことが多いためなのだが、購入した際には季節を問わず通年履きたいと考えている。季節によって靴下の厚みが異なる場合、サイズへの影響をどの程度想定したら良いのだろうか。分からないことを同時に二点も考慮しなくてはならない事態に、頭の中が限界を迎えた。

履いて出かける先や季節のことをあれこれ思い巡らせたが、シンプルに考えよう。主目的はあくまで日常の普段履きだ。主に履く靴下は、普通か少し厚手、あとはせいぜいデニールの高いタイツといったところだろう。(更にハイキングに行くとしたら、多分靴下は登山用の厚手のもので…なんて考え出すと収拾がつかなくなるので、思考から除外した。)実店舗で(他のカラーを)試し履きし、多くのコメント欄も参考に検討した結果、普段よりも+1cm大きい24.5cmに決めた。

届いたジャスパーの実物は、アウトドアスニーカーだけあってやはりとてもカジュアルだ。紐は、見ていると目がチカチカしてくるような黒と水色のカラフルなものと、落ち着いたベージュの二本が付いていた。紐で随分と雰囲気が変わるが、どちらにしても可愛らしい。つま先に近いところからたくさん空いている穴に紐を通していく。午前中と、足が浮腫んでくる夕方に、まずは室内で試し履きしてみた。サイズはぴったりで、窮屈さも感じないし、踵が上がることもない。(更には、思考から除外したようなかなり厚手の靴下を履くことがあったとしても、全体の紐を緩めることで調整できそうだった。)正しい履き方の通り、踵を起点にぴったりと足に合わせて紐を締める場合、着脱に多少の時間は掛かるが、紐靴であるがゆえに足囲を調節できるという良さを感じることができる。ジャスパーを履き始めて二年が経過したが、小指が当たって痛くなったことは一度もない。天候や多少の汚れを気にすることもないので、普段出かけるときはもちろん、移動が長時間に渡る帰省のときも、安心して履くことを選択できる一足となっている。始めはベージュの紐を通していたが、最近はカラフルな紐に変えて楽しむ心の変化まで生まれている。これは私にとって、とても大きな成功体験となった。

この成功体験は、もう一足続く。UNIQLO : C (ユニクロ:シー)のスニーカーだ。まずは靴の裏の画像をよく見て、ボール部を直線で結んだときの傾斜から問題なさそうかどうかを判断する。その後、在庫のある実店舗に赴き、実物の造りと試し履きによるサイズ感を確認してから購入するに至った。この判断プロセスと手順は、靴の購入に関わる思考・労力・時間の消費と疲労を大幅に軽減した。真っ白でシンプルなデザインは、足元が爽やか・軽やかに見えて、気に入っている。ファッション性の観点で明るさと楽しさを感じることができたのは、小指が痛くならないという絶対の安心感が土台にあるからだ。クッション性があって履き心地も良い。但し、合成皮革のため通気性はなく、色も白いので、たくさん歩く日にはあまり向かない。

本革のスニーカー(カジュアル度:低)、キーンのジャスパー(カジュアル度:高)、ユニクロ:シーのスニーカー(カジュアル度:中)。現在の私には、これら紐のスニーカー三足で十分事足りている。その日の気分やカジュアル度合いによって選んでいるのだが、どの靴を手に取っても、小指が痛くなる心配がないことに、ほっとしている。当面、新たな靴を買うことはないと思うが、もしその必要性が生じた際には、この判断プロセスに従って対応していきたい。

ここまでの検証に五年余りを要した訳だが、最後に薄々感じていたことを書いておこうと思う。何にも一長一短あることは承知の上で、下駄や草履はせいぜい鼻緒を調整することにより、つま先等の形状に関わらず誰でも自分の足に自然と馴染む。それは当たり前のようにグラデーションに沿う、まさに無限の世界で、とても優秀なのではないだろうか。

大手電機メーカーのサプライチェーンを担う物流会社において、輸出手配や輸出入コンプライアンスの業務に従事してきました。
2019年の退職を機に取り組んだことや深く感じたことをエッセイとして記録するとともに、そのほんの一欠片がどなたかにとって何かのヒントになればと思い、このブログを始めました。こんな物語もあるんだな、と読んでいただけたら嬉しいです。
趣味は、日向ぼっこ・クーピー画・たまに着物で美術館に出掛けることです♪(これらの背景については、追々記事にしていきたいと思っています^^)

Yoshimiをフォローする
暮らし
Yoshimiをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました